春闘のニュースで聞く「賃上げ率」や「満額回答」は、自分たちの給与とどう関係するのでしょうか。初めて春闘を担当すると、交渉の流れや要求額の決め方も気になるところです。このページでは春闘の基本から賃金データの読み方、要求づくりまでを整理します。全体像をつかみ、必要なテーマを詳しい記事で調べられます。

情報確認日:2026年10月2日|Union Strategy

春闘とは?誰が、なぜ春に交渉するのか

春闘(しゅんとう)は、労働組合が春を中心に時期をそろえ、企業に賃上げや労働条件の改善を求めて交渉する取り組みです。「春季生活闘争」とも呼ばれます。個々の企業の交渉を、産業や社会全体の賃金相場づくりにつなげる点に特徴があります。[1]

誰が交渉するのか

企業別労組の場合、会社と交渉するのはその企業の労働組合です。同じ産業の組合が集まる産業別労働組合や、連合などの全国的な労働団体は、方針や日程、情報交換を通じて交渉を支えます。連合が全国の企業の給与を一律に決める仕組みではありません。[1]

なぜ春に行うのか

4月から新しい年度が始まる企業では、その前の2〜3月に次年度の賃金や働き方を話し合う意味があります。また、組合が時期をそろえることで、他社の要求や回答を参考にしながら交渉できます。連合は、こうした仕組みによって賃金や労働条件の底上げを図ると説明しています。[1]

春闘の起点として挙げられるのが、1955年の8つの産業別組織による共同行動です。JILPTは、企業ごとに交渉するだけでは弱くなりがちな交渉力を、産業別の連携で高める狙いがあったと整理しています。[2]

春闘では何を交渉するのか

中心となるのは賃金ですが、春闘は給与の増額だけを話し合う場ではありません。連合の2026年方針でも、賃金に加えて働き方の改善や、ジェンダー平等・多様性などが扱われています。[3] 要求を整理するときは、例えば次のように分けると全体像をつかみやすくなります。

交渉する分野要求にする内容の例
月例賃金ベースアップ、定期昇給の確保、初任給・各種手当の見直し
賞与・一時金支給額や月数、算定方法、支給対象
労働時間・休暇長時間労働の改善、休暇を取りやすくする仕組み
生活と仕事の両立育児・介護への支援、福利厚生の利用条件
雇用・処遇制度再雇用の処遇、評価や昇格の仕組みの見直し
要求分野を整理するための例。すべてを一度に要求するという意味ではありません。

例えば「毎月の生活費が苦しい」という声と、「夜勤者が食堂を使えない」という声では、必要な改善が違います。前者は月例賃金、後者は制度の提供時間や対象者が主な論点になります。組合員の声を、何を変える要求なのかまで具体化することが準備の出発点です。

準備から回答・妥結までの流れ

春闘は、会社に要求書を出す日から始まるわけではありません。職場の声を集め、自社の賃金や経営の状況を調べ、組合内で要求を決める準備があります。以下は、連合の取り組みを参考にした企業別労組向けの進め方の目安です。実際の日程は、所属する産別や自組合のルール、会社の賃金改定時期に合わせて組みます。[3]

時期の目安進めること
前年秋〜年末前回の結果を振り返り、職場の声と賃金・経営資料を集める
1〜2月ごろ連合・産別の方針も踏まえ、組合内で要求内容を決める
2〜3月ごろ会社へ要求を提出し、根拠や改善内容を説明して交渉する
3月以降会社回答を検討し、必要な交渉を重ねて合意を目指す
合意後給与や制度への反映を確認し、結果を組合員に説明する

要求は組合が求める内容、回答はそれに対する会社の提示、妥結は労使が合意に至ることです。会社から回答が出たことと、組合がその回答で合意したことは区別します。

ニュースで注目される「集中回答日」は、先行する企業などの回答が集まる山場です。すべての組合の春闘がその日に終わるわけではありません。実際に連合は、2026年5月27日の会見でも春季生活闘争が継続していることを説明しています。[4] また、妥結した日と、給与の改定が適用される月・実際の支払日は別に確認します。

ベア・定昇・賃上げ率の違い

春闘の数字を読むには、「何によって給与が上がるのか」を押さえると理解しやすくなります。まず区別したいのが、ベースアップと定期昇給です。[5]

ベア

賃金表を改め、賃金水準を引き上げること。同じ等級・号俸でも、設定される金額が上がります。

定昇

あらかじめ決めた制度に沿った定期的な昇給。年齢・勤続年数によるもののほか、評価に基づく昇給も含みます。

したがって、定昇込みの「賃上げ率5%」と「ベア5%」は同じではありません。自社の回答でも、従来の昇給制度で上がる分と、賃金水準を引き上げる分を分けて読みます。賃金表の図で違いを確かめたい方は、ベアと定昇の違いをご覧ください。

賃上げ率は「何を分母にするか」で変わる

賃上げ率は、改定前の賃金に対する引上げ額の割合です。同じ対象者・給与項目で計算することが前提になります。[5]

賃上げ率 = 引上げ額 ÷ 改定前の賃金 × 100

計算例:月例賃金25万円を1万円引き上げる場合は、1万円 ÷ 25万円 × 100 = 4%です。これは仕組みを説明するための仮の数字であり、要求水準の提案ではありません。

この4%が定昇を含む総額なのか、ベアだけなのかによって意味が変わります。また、月例賃金の上昇率を、そのまま賞与を含む年収の上昇率にはできません。詳しい計算と集計の見方は、賃上げ率の計算方法で説明しています。

要求額をどう組み立てるか

要求づくりで決めたいのは、「何%と言うか」だけではありません。誰の、どの賃金を、どの水準まで改善したいのかを決め、その理由を説明できるようにすることです。ここからは、公開資料を使ったUnion Strategyの整理方法を紹介します。

まず、根拠となる資料の役割を分ける

材料考えるための問い
物価と生活実態現在の収入で、生活に必要な支出を賄えているか
他社の賃金・採用相場近い仕事や経験の人と比べ、賃金水準にどのような差があるか
連合・産別の方針社会・産業として、どのような改善を目指しているか
自社の経営と人員の状況人材確保や継続的な賃金改善を、事業計画の中でどう位置づけるか
要求根拠の整理例。各項目の率を足し合わせる計算式ではありません。

物価の動きは総務省の消費者物価指数(CPI)で確認できます。CPIは、家計が購入する商品やサービスの価格の変化を捉える指標です。[6] ただし、それだけでは自社の誰の負担が大きいかまでは分かりません。賃金データと職場の声を合わせて考えます。

現状と目標の差を、具体的な要求案にする

最初に、今年の改定後の賃金を年齢・職種・等級などで整理します。次に、生活面や他社との比較から目指す水準を検討します。そのうえで、全体のベアで改善するのか、特定の層の賃金表や手当も見直すのかを選びます。

連合の2026年方針も、賃金実態の把握に加えて、「上げ幅」と「到達する水準」の両面を重視しています。[3] 例えば、他社との差を縮めることが目的なら、今年の上昇率だけでなく、改定後にどこまで追いつくかも見る必要があります。

最後に、定昇と追加の賃金改善を分け、対象者・配分・実施時期を示します。物価上昇率と他社の賃上げ率を機械的に足すと、同じ物価対応を重ねて数えるおそれがあります。複数の資料は、要求を説明し、妥当性を確かめるために使います。

経営指標も、一つの数字から「あと何%払える」と自動計算するものではありません。利益の見通しや人件費計画も含めて検討します。具体的な進め方は春闘要求額の作り方、経営データの読み方は一人当たり営業利益の解説を参照してください。

他社の賃金水準を調べる方法

最初に分けたいのは、「いくら上がったか」と「現在いくらなのか」です。春闘の回答集計は主に前者を、賃金水準の調査は後者を知る材料になります。目的を決めてから探すと、資料集めが進めやすくなります。

今年の賃上げの動向を知るなら、連合や産別の回答集計、企業の公式発表を確認します。連合の年別ページには、要求・回答の集計と方針がまとまっています。[7]

近い属性の賃金水準を知るなら、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」が入口になります。職種や年齢などによる賃金の違いを調べられますが、個々の企業の賃金表が公開されているわけではありません。[8]

比較では、基本給・手当込みの月給・賞与込みの年収を混ぜないことが大切です。さらに、同じ等級番号でも、会社が違えば担う仕事や責任は一致しません。数字の差を見つけたら、それが処遇の差なのか、比較する人や給与項目の違いなのかを確かめます。

入手先から調べたい方は他社の賃金データの集め方、比較の仕方から知りたい方は自社の賃金と市場水準を比べる方法をご覧ください。

2026年春闘の結果:連合5.01%、厚労省の主要企業集計5.18%

2026年の春闘結果では、連合の最終回答集計は5.01%、厚生労働省の民間主要企業集計は5.18%でした。二つは集計対象が異なります。「どちらが正しいか」ではなく、誰の何の結果かを分けて読みます。[9][10]

集計と対象引上げ額率
連合・全体
平均賃金方式の5,368組合
16,400円5.01%
連合・300人未満
同方式の3,831組合
12,866円4.69%
連合・賃上げ分
内訳が明確な3,732組合
11,510円3.50%
厚労省・民間主要企業
対象条件を満たす428社
18,167円5.18%
いずれも月例賃金の引上げに関する結果。連合の上2行は定昇相当込み、3行目は賃上げ分のみ。連合は集計組合員数による加重平均。

連合は7月1日10時時点の回答を7月3日に公表。厚労省は7月31日に公表し、資本金10億円以上・従業員1,000人以上で労働組合がある企業のうち、妥結額などを把握できた428社を対象としています。[9][10]

この表は、すべての働く人の給与が同じ率で上がったという意味ではありません。 また、連合の5.01%と3.50%は対象組合が違うため、その差を「定昇分」とは計算できません。自社との比較には、総額なのか賃上げ分だけなのかも合わせて選びます。

産業別の結果を読む例はJAMの2026春闘と賃金格差で、賃金と生活費の関係は実質賃金と物価対応の考え方で掘り下げています。

2027年春闘に向けて準備すること

2026年の実績は、2027年の要求率や会社回答の予測ではありません。2027年の目標や日程は、連合・所属産別の正式な資料で確認する必要があります。本ページでは、情報確認日時点で2027年の最終的な要求方針と集中回答日を確認できていないため、数値や日付を断定せず、準備の進め方を紹介します。

今年の要求と、実際の改定結果を並べる

要求書、会社回答、改定後の賃金表や制度を一緒に確認します。平均でいくら上がったかだけでなく、要求していた対象者に改善が届いたか、未解決の項目は何かを整理すると、翌年の出発点が明確になります。

職場の声を、賃金と働き方の課題に分ける

「満足していますか」だけでなく、生活で負担が増えたこと、賃金や評価への疑問、働き続けるうえで困っていることを尋ねます。集まった意見から、賃金額を変える課題なのか、制度や運用を見直す課題なのかを考えます。

比較データをそろえ、要求の選択肢を持つ

自社の賃金、他社・産業の動向、物価、会社の経営資料を整理します。必要な資料をそろえたうえで、全体の賃金改善、特定の層の格差是正、手当や福利厚生の改善など、どの方法が課題に合うかを検討します。具体的な資料と質問例は、2027年春闘の準備ガイドにまとめています。

春闘の全体像をつかんだら、今知りたいことに合わせて次の記事へ進んでください。

給与と賃上げの仕組みを理解する

要求づくりと賃金比較を進める

春闘の結果を読み、次の交渉に備える

日本の労働組合に戦略を。

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出典・参考資料

  1. 連合「春闘(春季生活闘争)」。公表年月の記載がない常設解説。春に交渉する理由、企業別交渉と産業別連携の説明を参照。
  2. 労働政策研究・研修機構(JILPT)「JILPTリサーチアイ 第8回『60年を迎える春闘』」、2015年5月15日。1955年の共同行動と春闘の起源を参照。
  3. 連合「2026春季生活闘争方針」(PDF)、2025年11月28日確認。要求分野、賃金実態の把握、上げ幅・到達水準の考え方を参照。2027年方針としては扱っていません。
  4. 連合「2026春季生活闘争 地方連合会合同記者会見」、2026年5月27日。3月以降も交渉が継続することの確認に使用。
  5. 厚生労働省「令和7年 賃金引上げ等の実態に関する調査・主な用語の定義」(PDF)。ベースアップ、定期昇給、賃金の改定率の定義を参照。補助資料:連合「Q&Aでみる賃上げの方法と用語解説」。
  6. 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」。継続更新ページ。指数の概要を参照。本ページでは特定月の上昇率を要求率として提示していません。
  7. 連合「2026年春闘」。継続更新ページ。方針・要求・回答集計の入手先。
  8. 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」。継続更新ページ。調査概要、賃金水準の統計表の入手先。
  9. 連合「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果」(PDF)、2026年7月1日10時集計、7月3日公表。PDF1〜2ページの全体・規模別・賃上げ分の集計を参照。
  10. 厚生労働省「令和8年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」、2026年7月31日公表。平均妥結額、賃上げ率、集計対象を参照。

進め方の目安、資料の使い分け、2027年に向けた準備はUnion Strategyによる編集・提案です。統計の事実や各団体の方針とは区別して記載しています。