春闘のニュースに登場する「ベア」と「定昇」。どちらも給与が上がる話ですが、上がる理由が違います。この違いが分かると、「定昇込みで5%」という会社回答や、自分の昇給通知も読みやすくなります。賃金表の仕組みから、二つの意味を整理してみましょう。
定昇は制度に沿った昇給、ベアは賃金水準の引上げ
定期昇給、略して定昇は、あらかじめ決められた制度に沿って、毎年一定の時期に給与を引き上げることです。年齢や勤続年数に応じるものだけでなく、能力や業績の評価を反映するものも含まれます。
ベースアップ、略してベアは、賃金表を改めて賃金水準を引き上げることです。賃金表とは、仕事、能力、年齢、勤続年数などに応じて給与額を定めた表を指します。厚生労働省の用語定義
賃金表に段階が設けられている会社を思い浮かべると、違いをつかみやすくなります。定昇では、本人が制度に沿って次の段階へ進みます。ベアでは、同じ段階に設定された金額が上がります。

「個人の給与が増えたか」を見ると、どちらも昇給です。一方、「去年と同じ仕事・能力の段階に対して、今年はいくら払うか」を見ると、ベアによる変化が分かります。連合も、この違いを賃金表上の移動と、賃金表の書換えとして説明しています。連合の用語解説
「定昇込みの賃上げ」は、二つを合わせたもの
春闘は、労働組合が賃金や働く条件の改善を会社と話し合う取り組みです。その回答が「定昇込み」とされていれば、従来の制度による昇給も賃上げ額に含まれています。全額がベアという意味ではありません。
例えば、給与の増額が月1万円で、その内訳が定昇4,000円、ベア6,000円だったとします。 本人の月給は合計1万円増えます。 そのうち、賃金水準を引き上げた部分は6,000円です。 これは違いを説明するための仮定であり、実際の会社回答や要求額の目安ではありません。
会社の資料には、「賃金改善」「昇給」「賃金改定」など別の呼び方が使われることもあります。名称だけで決めず、定昇、ベア、手当の改定など、何が含まれているかを内訳で読みます。
率で発表された回答を金額と対応させる方法は、賃上げ率の計算と春闘集計の読み方で扱っています。
ベアがなくても昇給することはある
定昇が実施されれば、ベアがなくても個人の給与は増えます。ただし、制度に沿って自分の給与が上がることと、同じ段階の賃金が前年より高くなることは別です。
物価が上がったときに、定昇だけで十分かを考える場面にも、この区別が役立ちます。経験や能力の向上に応じた昇給と、物価などを踏まえた賃金水準の改善を一つにまとめてしまうと、何に対する増額だったのかが分からなくなるためです。両者を分けたうえで、自社の制度と生活費の変化に照らして評価します。
また、「定昇」という制度があることから、全員が毎年同じ金額だけ上がるともいえません。査定の方法や対象者、賃金表の上限などによって、個人への適用は異なります。制度がない職場では、定昇に相当する部分を交渉で確保するという考え方もあります。連合の用語解説
昇給通知は、前年の給与と新しい賃金表を照らす
自分や組合員の昇給内容を確かめるときは、まず前年と今年の基本給を比べます。給与の支給総額だけを見ると、残業時間や手当の変動が混ざるため、制度による増額をつかみにくくなります。
次に、会社の回答書と新旧の賃金表で、定昇とベアの扱いを確かめます。本人が表のどの位置からどこへ進んだのか。同じ位置の金額はいくら変わったのか。この二つが分かれば、給与が上がった理由を説明できます。昇格や職務変更があった場合は、その影響も分けて見ます。
組合が春闘結果を伝えるときも、「一人平均でいくら増えるか」に加えて、「定昇がいくら、賃金水準の改善がいくらか」を示すと、回答の内容が伝わります。その平均額が全員の昇給額ではないことも、配分の説明と一緒に伝えておきましょう。
出典・参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査・主な用語の定義」、2025年10月公表。定期昇給、ベースアップ、賃金表の定義。定義PDF
- 連合「Q&Aでみる賃上げの方法と用語解説」、公表年月の記載がない常設ページ。Q1・Q3の定昇とベア、平均賃金と個別賃金の説明。公式ページ
出典確認日:2026年9月21日。図と計算例は、上記の定義に基づくUnion Strategyの説明です。
