自分たちの給与は、同じような仕事をする他社の人と比べて高いのでしょうか。会社から「市場水準並み」と説明されても、何を比べた数字かが分からなければ判断に迷います。市場水準の意味を整理し、月給や年収の比較から自社の立ち位置を読み取る方法を説明します。
市場水準とは、比較する集団の賃金水準
賃金の市場水準は、全国共通の一つの金額ではありません。同じ職種を採用する企業、同じ地域の企業、同じ業種や規模の企業など、どの集団を比べるかによって変わります。
例えば、採用時に競合する相手を知りたいなら、同じ人材を求める職種・地域の賃金が参考になります。今いる組合員の処遇を見たいなら、仕事の内容や経験、勤務時間などが近い人との比較が役立ちます。会社が採用のために使う調査と、組合が中堅層の処遇を確かめるために使う調査は、目的によって異なってよいのです。
公的な賃金統計にも、産業、企業規模、雇用形態、年齢などの区分が用意されています。厚生労働省の賃金構造基本統計調査は、こうした条件ごとの賃金実態を把握するための調査です。2025年調査の公表資料
月給、基本給、年収は、それぞれ別に比べる
比較の出発点は、何を含む金額かをそろえることです。基本給だけの金額と、手当込みの金額では差が出ます。賞与や残業代が含まれた年収を12で割っても、基本給にはなりません。
実際に、厚生労働省の2025年調査の概況で「賃金」として示されるのは、2025年6月分の所定内給与額の平均です。これは、定められた条件で毎月支払われる給与から超過労働給与を除いた、税などの控除前の額です。基本給だけを表す数字ではありません。調査の用語定義
一方、民間の報酬調査には、基本報酬、賞与、福利厚生を分けて扱うものがあります。マーサーの総報酬サーベイ2025年版も、そのような調査の一つです。マーサー・2025年版の説明
毎月の生活を支える固定的な給与を知りたいなら、基本給や所定内給与を比べます。年間の現金収入を知りたいなら、賞与や手当まで範囲を明示して年額を比べます。「何の水準を確かめたいか」を先に決めると、資料を読み違えにくくなります。

会社全体の平均より、近い仕事・層を探す
平均年収が高い会社に入れば、同じ仕事の人が必ず高い給与を得られるとは限りません。平均値には、年齢、職種、管理職の割合など、その会社の人員構成が反映されます。
そのため、自社の非管理職の処遇を比べたいときに、管理職を含む他社全体の平均だけを置いても、知りたい差は見えにくくなります。公開資料で分かる範囲から、職種や年齢層、雇用形態を近づけていきます。
仕事を比べる際は、役職名だけでなく、担当範囲や責任にも目を向けます。同じ「主任」でも、部下の管理を担うのか、専門担当者なのかで役割は変わります。仕事と等級の対応を詳しく調べたい場合は、等級別賃金の比べ方が次の入口になります。
すべての条件を一致させたデータが見つからないこともあります。そのときは、分かる差と分からない差を区別します。全国・全産業の平均は広い位置付けを見る材料にとどめ、そこから特定職種の不足額まで算出しない、という使い方です。
「平均並み」と「目指す水準」は同じではない
市場のどこに位置するかを見る際には、平均値と中央値も区別します。平均値は金額を合計して人数などで割った値、中央値は金額順に並べた中央の値です。高い金額の人が一部にいる集団では、二つの値が離れることがあります。
連合の「2026地域ミニマム・規模計」の資料には、都道府県・産業ごとに平均や中位などが掲載されています。同じ資料の中でも、どの指標を選んだかによって「並み」の意味は変わります。連合・都道府県別の賃金資料
また、平均や中央値と同じ位置にあるという事実から、その会社にとって望ましい賃金が自動的に決まるわけではありません。採用や定着で困っている職種、生活費の負担が重い層など、改善を考える理由は別にあります。市場比較は、自社の処遇を考える材料の一つです。
比較表には、金額と一緒に条件を残す
会社の説明を読む場合も、組合で資料を作る場合も、次の内容が一緒に分かる比較表にすると、話がかみ合います。
| 比較表に書くこと | 記載する内容 |
|---|---|
| 誰と比べたか | 業種・規模・地域、職種・年齢層・雇用形態 |
| 何を比べたか | 基本給、手当込み月額、賞与込み年額などの範囲 |
| どんな数字か | 実際の支給額か制度上の額か、平均か中央値か |
| いつの水準か | 給与の基準月・対象年度、自社の改定が反映済みか |
| どこに載っているか | 調査名、表の区分、URLや資料の頁 |
会社から「市場水準並み」と聞いたら、「どの職種・層の、何を含む給与を、いつの資料で比べましたか」と尋ねるだけでも、説明は具体的になります。条件が近いデータで差が見えたら、どの層のどの給与項目に差があるかを話題にできます。
比較資料の集め方は、他社の賃金水準を調べる方法で、実際の入手先とともに紹介しています。
出典・参考資料
- 厚生労働省「令和7(2025)年賃金構造基本統計調査」、2026年3月24日公表。報道発表、主な用語の定義、利用上の注意。概況の集計対象は常用労働者10人以上の民営事業所。
- マーサージャパン「総報酬サーベイ2025年版の結果を発表」、2025年11月26日公表。調査が扱う報酬項目を参照。公表ページ
- 連合「47都道府県 産業別特性値(2026地域ミニマム・規模計)」、2026年2月12日掲載。平均・中位などの集計項目を参照。名称の「2026」は資料の版であり、本稿ではこれを2026年の給与実績とは扱っていません。資料PDF、掲載日が分かる2026年春闘ページ
出典確認日:2026年9月21日。比較表の作り方と使い分けはUnion Strategyによる整理です。
